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地球を楽園にする芸術家・増山麗奈のブログ

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画家・ジャーナリスト・映画監督の増山麗奈が社会×アートを取材発信します!

深瀬鋭一郎さんから、すばらしい「SUMI KANNON」評届く

深瀬鋭一郎さんによる鋭い評論をいただきました。多謝。期待を裏切らないよう、されど自分勝手に(笑)今後も制作がんばるぜい!
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その、芸術としての身体から

増山麗奈は、1976年千葉市生まれ。1995年に東京藝術大学油画科を中退した、画家兼パフォーマンス・アーティストである。2008年7月から8月にかけ、東京赤坂のギャラリー「COEXIST」において「SUMI KANNON」と題する個展を行ったが、その会期中に展覧会場で「三美神と観客の手を描く」と題する公開制作を行い、「三美神」という題名の作品が完成した。
「三美神」は、180cm×360cmの和紙を支持体として、ぶどうの剪定枝から作った木炭で描いた大作である。支持体となった和紙は、紙すき職人の深沢修氏(夢紙工房)と増山麗奈が共同ですいた、古新聞の再生紙だ。再生紙は古い言葉で「還魂紙」という。同氏がすいた中では、最大の和紙とのことだ。
中央部には、三人の美神が描かれている。右側の美神は、自身がリーダーを務める反戦アート活動グループ「桃色ゲリラ」のメンバーかつ歌手である白井愛子だ。ピンク色の炎に包まれながら、片手にカラシニコフ突撃銃を掲げている。左側は、増山麗奈の自裸像であり、川の流れを背景に全裸で母乳を飛ばしている。真中の美神は、増山麗奈の活動を描く現在制作中のドキュメンタリー映画「桃色のジャンヌ・ダルク」で20代の増山麗奈役を演じた女優の神楽坂恵であり、エコロジカルに木と同化しつつ、胎児を宿している。また、美神達の周囲には、公開制作に来場した観客の手が沢山描いてある。
似顔絵書きとして生計を立てたこともある増山麗奈にとっては、こうした人物モチーフはお手の物だが、この作品の意味合いはそれだけには止まらない。要すれば、これは増山麗奈がこれまで展開してきたアート活動をモチーフとして描いた、三頭三身の千手観音像であろう。これら画面上の諸要素を解きほぐすことを通じて、そのことを考察してみよう。
まず、「三美神」の画面において最も目立つ「桃色ゲリラ」は、増山麗奈がイラク戦争反対を標榜して2003年から展開し社会的に注目を浴びた、いわば作家の「原点」とも言えるプロジェクトである。画面の右半分で、イラク戦争から5年を経て、再び桃色の炎が燃えさかっているのは、グルジア南オセチア自治州の独立をめぐって紛争が起こり、ロシア軍がグルジアに侵攻したタイミングで描かれたからだろうか。
 つぎに、増山麗奈が第二子出産にあたって2006年から開始した「母乳パフォーマンス」には、母乳カクテル、母乳ペインティングなど、様々なバリエーションがある。公開制作作品「三美神」の完成お披露目として、白井愛子とふたりで行ったクロージング・パフォーマンス「三美神降臨」では、作家はそのフィナーレで母乳飛ばしを披露した。子の成長に伴い、増山の母乳は出なくなってきており、これが当面最後の母乳パフォーマンスとなるかもしれない、とのことであった。
そして、2006年から徐々に制作を活発化し、最近は作家の主要な作品系列になってきているエコロジーアートが中央に配置されている。「Earth Day Tokyo 2006 お話の森 芸術は地球を救う」(代々木公園)において、筆者が作家に出展を依頼したライブスカルプチャーパフォーマンスから始まった系列である。増山麗奈のライブスカルプチャーではモデルを扮装させ、そこにボディペインティングを施していくことが多いが、ここでは、代々木公園のパフォーマンスと同様に、生木の扮装で木と一体化する様子が描かれている。腹部には胎児を宿しており、自然に帰りつつ、母として新たな命を生み出すイメージを絵画表現するとともに、古新聞で制作した「還魂紙」に木を炭化させてつくられた備長炭で描いていく公開制作において、「汚れたジャーナリズムを美しい作品としてリサイクルする」(作家談)プロセスも体現している。
魂が還ってくると表記する「還魂」は輪廻に通じ、「神」は「紙」に通じる。「三美神」は、こうした紙や命の循環を「賛美する神」=「賛美神」とも理解することができる。美神は古来、美を賛美するとともに自らが美の体現者であるが、ここでは増山麗奈の三つの分身として描かれている。モデルや白井愛子の姿に化体してはいるが、それらはいずれも増山麗奈の別の顔、別の姿である。もとより、宗教的にみれば、西洋の美神と東洋の観音は別のものだが、この画面上の三美神は本来一体の増山麗奈なので、三頭三身の千手観音像として表現されているのであろう。
周囲に描かれた二十数本の臂(手)をみると、花を持つ手あり、カメラを持つ手あり、自殺未遂のリストカット痕を持つ手もある。これらは、公開制作中に来訪した観客の手を描いたものである。木炭のモノクロームが支配する画面ではあるが、それらの手が持つオブジェは、個々の観客を象徴するアイコンとして、自分と観客の意識の集中を促すため着彩してある。そこでは、観客の職業も過去も喜怒哀楽も、暖かいまなざしで、すべて等価に受け止められているようだ。観客を楽しませながら、参加芸術として巻き込み、協力を得て芸術活動を進めていく、増山麗奈ならではのモチーフである。
六観音の一尊としての千手観音は、地獄の苦悩を済度し、一切衆生を済度し、産生平穏を司るという。平和活動やエコロジー活動に邁進し、母性や出産をテーマとしてきた増山麗奈は、パフォーマー兼社会活動家として、その体が「美」を体現する、いわば芸術品であるとともに、その体から「美」としての芸術作品を産み出していく。こうしてみると、美しく、目立ちたがり屋で、かつ周囲の人々への愛とエロスにあふれる増山麗奈は、まさに観音様そのものではないか。
増山麗奈は「この作品に自分の持てるすべてをぶつけた」というが、その言葉のとおり、「三美神」は三十二歳までの作家の活動を総覧する内容が描かれている。そして、そのことで、初期の作家活動を画する作品となったのである。

(注)COEXISTは、炭化装置メーカーである株式会社ゼロ・エミッションが、「日本初のエコアート専門ギャラリー」を標榜して、赤坂にあったショールームをアートスペースに改装したもの。筆者をアドバイザーに招聘し、2007年3月から2008年8月までの1年半活動した。「SUMI KANNON」はその最後の企画展である。

深瀬記念視覚芸術保存基金代表 深瀬 鋭一郎


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by renaart | 2008-08-22 11:15

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